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ヤマハ PSS-A50にステレオ出力をつける

PSS-A50はチップからステレオの信号が出ている。それを取り出してLPFやアンプなどの回路を通せばステレオの音声が得られることは前回お伝えした通り。

実際に改造を施してみたので、やり方を大雑把にまとめてみる。もとの回路にはなるべく手を加えず、手っ取り早くステレオ出力を得ることにした。

レビュー記事で使用したMIDIデータを少しいじってステレオ化した本体で鳴らしたものも参考程度においておく。

準備

PSS-A50のチップから出るオーディオ信号はいわゆる1bit DACとかDSDとかと同じPDMだ。負論理の信号もあるので、差動出力である。

そのままイヤホンやアンプを接続しても音は聴こえるだろうが、ローパスフィルターを介してDA変換を行うのがセオリーとなっている。

筆者は電子工学の素養が無いので、回路の設計はできないし、部品の選び方だってわからない。そこで、同じようなPDMの信号を扱う回路を持つキットを流用しようと考えた。

akizukidenshi.com

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こちらはマイコンボード「Raspberry Pi Pico」の機能を活用してオーディオDACを作るというInterface誌の特集のための基板。「差動出力のPDMをLPF通してオペアンプで増幅する」という構成のため、そのまま流用できると考えた。

とりあえず組んでみた

主目的ではないものの、動作確認のためにラズパイPicoDACとして使ってみる。Interface誌のWebサイトで配布されているビルド済みバイナリをPicoにD&Dで入れるだけなので、開発用のソフトを入れなくても試すことができる。

パソコンにUSBで接続してみると、特に違和感なく音が聴こえた。普通に常用できる音質だ。

マイコン内でUSBしゃべったり、PCMをPDMに変換する信号処理をしたり、それをProgrammable IOと呼ばれるRP2040特有の機能でピンに出力するなど、なかなかにおもしろいことをやっているらしい。すごい万能感。

Interface誌の特集ではこのラズパイPicoDACを数回にわたって改良し、ハイレゾ対応や信号品質の改善などを行っているそうな。機会があれば読んでみたい。

いざ改造

DAC基板の動作確認ができたので、本体に組み込んでいく。

組み込むために切断

ピンソケット部分やレギュレーター部分は必要無いので、本体に組み込みやすいように基板を切断した。

場所を工夫すれば切断しなくても入るのだが、すでにリチウムイオンバッテリーを積んでいるし、将来の拡張用にもスペースを残しておきたいので切断した。

とても素直な配置で使いやすい基板だ。

結線

メインLSIであるYMW830-Vから信号を取り出す。0.5mmピッチの足から取るので、使いやすいハンダゴテとフラックス、細めのUEW線などが必要。

ピンアサインはこちらのブログを参考にした。

sandsoftwaresound.net

  • 1番 L+
  • 2番 L-
  • 5番 R-
  • 6番 R+

といった具合に並んでいるので、これらをUEW線で取り出し、それぞれDAC基板の入力に接続。5VとGNDも電解コンデンサーの足など適当なところから取ってくる。

メインLSIにはんだ付けしたUEW線は油断すると外れてしまうので、接着剤で基板に固定しておく。今回はUV硬化の接着剤のUV Bondyを使用した。

筐体加工

ジャックの位置に穴を開けてプラグを挿せるようにした。とりあえず両面テープ基板を固定しているが、とても不安定なので別の方法を用いる必要がある。

面倒でなければ、パネルマウントのジャックを用意して接続するのがいいかもしれない。

動作確認

今回はもともとの音声出力回路には介入せず、新たにステレオ出力のジャックを設けた。新設したジャックにケーブルがささっていてもいなくても、スピーカーやヘッドホン端子は今まで通りだ。

スピーカー出力を止めたい場合はもともとのヘッドホン端子にプラグを挿しておく。

新設したジャックにイヤホンを挿して演奏してみると、確かに左右に広がりがある。と言っても、ステレオサンプリングではないので、リバーブの成分だけがステレオになっている具合だ。

地味な効果だが、モノラルと比べるとイヤホン使用時に聞き疲れしにくくなるメリットがある。

MIDIシーケンサーから鳴らす

GM配列ではないものの、USB接続時にはマルチティンバーの音源として使うことができる。

レビュー記事で使用したものをステレオ改造用に少し調整して鳴らしてみた。

(横着してWindowsの録画機能で録音まで済ませたため音質が悪いが、実際にはもっと綺麗)

ステレオになったが、相変わらずパンポットは受け付けないようだ。しかし、リバーブやコーラスはちゃんとステレオで出ている。バッキングには深めにエフェクトをかけて、奥行きを出せるようになり、音作りが少ししやすくなった。

PC101番のシンセパッドが実に気持ちいい。

わざわざPCに繋いでマルチティンバーで鳴らすようなマシンでもないので、そんなにうれしくない。

おすすめできる?

正直言って、この改造は手間や難易度の割に効果が限定的だ。鍵盤の出来が良いので、出音も良くすれば演奏をより楽しめることは間違いない。しかし、出力をステレオにしたところでガサガサした音質は改善しない。

出音を良くしたいのであれば、内蔵音源に見切りをつけるべきで、PCやスマホなどに接続してソフト音源を使うのが手っ取り早いだろう。この場合には、BLE MIDI内蔵化改造が役に立つ。ただ、このESP32を使った方法はレイテンシーがかなりあるので、別の通信モジュールやライブラリの使用を検討すべきかも。

本機の最大の魅力はスタンドアロン動作による手軽さだと思っているので、音源部や出力用スピーカーも本体に含まれていることが望ましいだろう。昔のPCのサウンドカード用ドーターボードDB50XGあたりならギリギリ入るかもしれないが、入手困難だ。

ヤマハじゃなくてもいいならGM音源チップのSAM2695、PCMシンセにこだわらないならFM音源のYMF825など、別の音源を積むにも選択肢が色々考えられる。

と、言うわけで、改造のネタとしては面白いが、手間の割に実用にはあまり嬉しくないと言う結論を残して締めたい。