2021年はハンズアップの復活を感じられる年だった。前回の00'sを象徴するクラブ音楽「ハンズアップ」を紹介する記事がとても好評だったので、今回はもう少し時代を遡って90'sにスポットライトを当ててみようと思う。
ユーロダンスは1990年代に生まれたスタイル。デジタルシンセサイザーやサンプラーのほか、ボーカルやラップが多用され、キャッチーでわかりやすい楽曲が多いことからクラブミュージックに明るくない層からの支持も熱かった。
はじめに
90年代はハウスやレイブ(ジュリアナテクノとも)、トランスなどが広く認知され、商業化も急速に進んで良質なトラックが数多く生まれた。日本では小室ファミリーの黄金期であったと思う。その頃、欧州で4つ打ち系ダンスミュージックのサウンドとポップミュージックがフュージョンし、ユーロダンスと呼ばれるスタイルが確立される。
シンセサイザーを多用したきらびやかなサウンドが特徴。今聴くと少しだけダサく感じるのがまた良い。
個人的には当時のデジタルシンセのファクトリープリセットそのままの音が沢山使われているところがおいしい。KORG M1やRoland JD-800あたりが多用される。
楽曲紹介
La Bouche - Be My Lover
近年になってTikTok*1で流行ったり中森明菜がカヴァーしてたりと話題が尽きない名曲。
中森明菜版は全体的に今風の音だが、リズムの刻み方やM1オルガンを使っているあたりユーロダンスへの強いリスペクトを感じる。ボーカルもパワフルで大変魅力的だ。
Haddaway - What Is Love
Koko - Open Your Eyes
Eye Openerとしても知られる。マキナもあるよ。
Eiffel 65 - Da Ba Dee
言葉遊び的な曲。シンプルな構成ながら引き込まれる。シュールなMVは必見。
Scooter - Fire
かっこいいオケにMCが載るスタイル。熱いギターとクールなシンセサウンドが交互に来る感じが気持ちいい。今でもテレビ番組でよく耳にする。
Solid Base - Come'n Get Me
よくある女性ボーカルと男性MCのデュオ。楽曲構成もサウンドもシンプルで、後年のEDMのような洗練されたノリの良さを感じる。
Vengaboys - Boom,Boom,Boom,Boom!!
映像は近年制作されたものだが、楽曲は1999年のもの。
M1 Organをベースに使ってるのがおしゃれ。Vengaboysのこのスタイルは様々なアーティストが引用している。
ATC - Around The World (La La La La La)
Alice Deejay - Better Off Alone
デヴィッド・ゲッタのPlay Hardにサンプリングして使われたことはあまりにも有名。ウッーウッーウッーウマウマでおなじみCaramellのVild Och Galenの元ネタでもある。
Captain Jack - Dream a Dream
リフのメロディーはクラシック楽曲「山の魔王の広間にて」から引用している。Captain Jackの楽曲はどれも音質が良い。
Boom - How do you do?
2009年リリースなので割と新しい。Kanikulyのカヴァーらしい。他にも様々な言語でカヴァーされている。
サブジャンル バブルガムダンスについて
ぶっちゃけこっちの紹介がメイン。
90年代末期にはユーロダンスのサブジャンルであるバブルガムダンスが広く知られるようになる。笑っちゃうくらいキャッチーなメロディーとちょっと変な歌詞が特徴。おとぎ話的な世界観を持つ曲や、コミックソング的な曲も多い。デンマーク産が多い印象。
J-POPでよく見られるAメロBメロサビの楽曲構成や定番のコード進行、メロディアスな曲調から日本人の耳にも馴染みやすい。最初から日本市場や日本文化を意識して制作されているものも多い。
Smile.dk - Butterfly
「結婚式でかけたいバタフライトップ5」*2にランクインしてそう。アイヤイヤイと言えばこれ。初代DanceDance Revolutionに収録され、何度も繰り返し遊んだという人も多いハズ。
「私は可憐なチョウチョ、サムライを探しに日本に来た」的な歌詞。似非日本感あふれるミュージックビデオもいい感じ。
Smile.dk - Doo-Be-Di-Boy
Butterflyの続編的楽曲。似非日本感がとてもいい感じ。
Cartoons - Witch Doctor
ウーイーウッアッアーでお馴染み。1958年の同名の曲のカヴァー。
Dr.Bombay - S.O.S.
トラに家族をさらわれた!という内容のコミックソング。インド英語っぽい発音もまた心地よい。
Toy-Box - Tarzan & Jane
これぞバブルガムダンス!といった感じの曲。Toy-Boxは曲ごとに違う世界観を持っていてどれも魅力的だが、中でも筆者のお気に入りはこれ。
Aqua - My Oh My
Aquaといえばバービーガールだけど、My Oh Myは編曲が抜群に良いし歌詞もしっとり目で大好き。
Ryu☆のLight Shineの元ネタとしても有名。
Daze - Superhero
Dazeの曲は独特なスキャットが入っていがち。
Miss Papaya - Operator
Miss PapayaといえばHeroだけど、あえてこちらを紹介。
Jenny Rom - WWW.Blonde Girl
速い方はDDRやDancemania Speedシリーズでおなじみだが遅い方は聴いたことないな……。探したらあった。
Gummy Bear - I'm a Gummy Bear
不気味な3DCGに小気味よいスキャット、バブルガムダンスだねこれは。
ちなみにアルバムではDaddy DJやスキャットマン、Blue (Da Ba Dee)などをカヴァーしている。うーん、Crazy Frogの仲間?
Die Schlümpfe - Captain Schlumpf
スマーフによるCaptain Jackのカヴァー。マジかよ。
Discogsを掘った感じ、他にもユーロダンスのカヴァーがあるようだ。それどころか初期のハッピーハードコアまである。
ユーロダンスリバイバル
後年制作されたユーロダンス/バブルガムダンス楽曲を紹介
Ylvis - The Fox (What Does The Fox Say?)
サウンドは近年のEDM調だが、バブルガムダンスの精神で作られたことは間違いないだろう。実際キツネの鳴き声知らない。
Ryu☆ - しろねこさん
90年代のバブルガムダンスのノリとサウンドを現代風にブラッシュアップした感じの曲。日本語ボーカル。
Cream puff - Mermaid girl
Ryu☆/Halka/Mayumi Morinagaらによるユニット*3がお送りするバブルガムダンス。2010年稼働の業務用音楽ゲーム「beatmania IIDX 18 Resort Anthem」に収録された。同作の看板曲として大変好評だった。古くからのDanceDance Revolutionファンには特に歓迎されたという。
明るくキャッチーな曲調と裏腹に、歌詞はちょっぴり切ないおとぎ話。すごくいい曲*4。
beatnation Records feat.NU-KO - crew (Ryu☆ mix)
コナミの音楽ゲームから生まれたレーベル「beatnation Records」の10周年を記念して制作されたアンセムで、複数のアレンジが存在する。中でもcrew -Ryu☆ mix-は90年代前半のユーロダンスを強く意識した音使いで、非常にクオリティーの高い90'sリバイバルな曲に仕上がっている。
Hard But Crazy - Hardstyle Girl (Harris & Ford Remix)
AquaのBarbie Girlのカヴァーのハードスタイル。90年代サウンドを小ネタ的に使っていて熱いリスペクトを感じる。クラブでかけたら即優勝間違いなし。
きゃりーぱみゅぱみゅ - ガムガムガール
元からきゃりーぱみゅぱみゅの楽曲の世界観はバブルガムダンスに近しいものがあったが、ガムガムガールではその方向性を更に強めている。怪しい日本感とキャッチーなメロディーがそれっぽい。
Chorale - Koeajo
フィンランドのSuomidanceユニットのChoraleは2000年代も2010年代も、そして今もなおユーロダンスのスタイルを守り続けている。
ユーロダンスのサウンドについて
前述の通り、ユーロダンスには当時のシンセサイザーの音が良く使用される。
初期は80年代のFMシンセやポリフォニックのアナログシンセが使われるが、中期以降はPCMシンセやアナログモデリングシンセのサウンドが多くなる。Zero-GのDatafileなどのサンプリングCDも用いられる。
JD Nylon
JD-800内蔵パッチ65番のNylon Choirをナイロンギター波形だけにしたやつ。無料で入手できるCakewalk by BandlabについてくるGM音源TTS-1にも近い音が収録されている。
JD Piano
JD-800内蔵パッチ53番のAc. Piano 1。高音域の透き通るような音が良い。
M1 Piano
みんな大好きM1ピアノ。
M1 Organ
M1内蔵パッチ57番のOrgan 2。ハッキリとしたアタックと五度上の成分が多めに出てるのが特徴。コードで鳴らしても映えるし、ベースに使っても気持ちいい。
TX81Z Lately Bass
TR-909
アナログとPCMのハイブリッドなドラムマシン。当時から現在に至るまでサンプリングされ擦られまくってきた。
トラックメイクに取り入れたい人向けの情報
正常に動作する個体はやや高価だが、ソフト音源で近い音が出るものは手頃な値段で手に入る。
KORGのM1やRolandのJD-800などは本家のソフトウェア音源がある。Digital SynsationsやOmnisphere 2など実機からサンプリングされた音を使った音源でも雰囲気は近い。
Kontakt上で動作するJD-850は29.99ユーロとお手頃ながらも操作性がよく、内蔵パッチは網羅しているのでおすすめ。Loot Audioでたまに40%引きになっている。
M1ピアノのEXS24形式のサンプル
JDピアノのKontakt音源
どうやって聴く
20年以上昔の曲が多いがどれも公式YouTubeや有志による投稿で聴くことができる。サブスク配信がされている楽曲もそれなりに多く、もちろんiTunes Storeでの販売もある。
中古ショップのCDコーナーでも根気よく探せば見つけられる。江別市のブックネットワンに大量にあったので何枚か確保した。
オムニバスアルバムという手
Dance Panic!シリーズやDancemaniaシリーズなどのオムニバスアルバムなら多数のアーティストを知ることができるのでオススメ。
筆者のお気に入りはDancemania SPEED5。ハッピーハードコア風にリミックスされていて楽しい。
Dance Panic!は参加アーティストや楽曲の傾向がDancemaniaシリーズとだいぶ違う。
DANCE EXPRESS Hi-SpeedはDancemania SPEEDと似ているがポップスの名曲のカヴァーが中心*6。ユーロダンスもあるので紹介。
最後に
リアルタイムで追っていた世代の方もそうでない方も楽しんでいただけたのなら幸いだ。世間的に90年代リバイバルブームが落ち着いた後だが、90年代カルチャーの「人々を惹き付ける魅力」は今も変わらない。
今回記事を作成するにあたって、お気に入りの楽曲を探している間に新たな発見や楽曲との出会いもあった。ユーロダンスへの理解が深まったと思う。