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ミヨシのAV端子入力付きHDMI切替器は微妙だった

はじめに

近年のゲーム機ならHDMIでパソコンのモニターでも4Kテレビでも接続して映せる。しかし、HDMIが普及しだしたのは2000年代の後半から。それより前に発売されたゲーム機には無い。

最新のテレビでもビデオ入力は対応しているが、ミニプラグへの変換が必要な簡易的なもので、使い勝手が良いとは言えない。また、パソコン用のモニターでビデオ入力を備えたものはレアだ。

ここではミヨシの「AV端子入力付きHDMI切替器」を購入して試したことを書く。

TL;DR

  • 安物のコンバーターはみんな4:3のソースを16:9に引き伸ばしてしまう
  • 今回紹介するミヨシの「AV端子入力付きHDMI切替器」は縦横比の切り替えができる
  • ゲームには向かない、切替器としても微妙

令和の変換器事情

モニターに入力端子がないなら変換器を使えばいい。Amazonで「hdmi av変換」などと検索すれば千円台から見つかる。

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Amazonの検索結果

USBで電源を供給してHDMIでモニターに接続し、ゲーム機などを黄白赤のケーブルで接続するだけで映る、ごくシンプルなものだ。操作方法と言えば720p-1080pの切り替えスイッチがあるくらい。

レビューは概ねいい感じ。だが、これらの変換器は縦横比が16:9に固定されてしまうそうだ。

頼むからアスペクト比を気にしてくれ

縦横比4:3のテレビが当たり前で、そのテレビで遊ぶことを想定していたゲームの画面も横に引き伸ばされてしまう*1

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4:3のソースは横に引き伸ばさず、ピラーボックスで表示するのが正義。

4:3向きに作られたコンテンツを16:9に引き伸ばして見るなんて耐えられねえ。アスペクト比がおかしい状態で楽しめるなんてみんな頭がおかしい。どうかしている。

どうやら私のような価値観*2を持ち合わせた人間は少ないようで、千円台のコンバーターを買う人も作る人も全く気にしていないようじゃないか。

今回買った変換機能付きHDMIセレクタ

ケーブルや電話機のアクセサリのイメージが強いミヨシから変わったHDMIセレクターが出ていた。3つのHDMI入力とAV入力がついているというのだ。しかも「アスペクト比を変えられること」を売りにしている。アスペクト比にうるさいオタクとしてこれは買わないわけにはいかない!

セレクターに変換機能といえばその昔コナミからRF入力*3付きのゲームセレクター(詳細はググってみてほしい)という製品が発売されていた。過去の資産と現在の資産を一元管理できる豪華なオマケが付いているという意味では本機に近い。

まあそんなことはどうでもいい。いざ検証!

AV入力を試す

f:id:darekasan_net:20210315013749j:plain 使い方はとっても簡単。本機をテレビと電源に接続し、付属のリモコンで入力4に切り替える。アスペクト比4:3/16:9の切り替えもこのリモコンで一瞬でできる。映像は1080pで出力される。

今回使ったテレビはソニーのKJ-49X8300D。少し古い4Kテレビで、コンポーネント入力もあるので変換器のお世話になる必要はあまりないのだが。

入力がないときはNO SIGNALと表示される。これはトラブルシューティングにとても役に立つが、パソコンのモニターに接続する場合にはちょっとした問題(後述)が生じる。

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ノーシグナル!

とりあえず遅延測定!

HDMI-AV変換でパソコンの映像を出力し、本機とブラウン管モニターに分岐。LCDDelayCheckerを実行し、画面を240fpsで撮影するという方法で測定。

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動画をコマ送りで確認すると5.75フレームほどの遅延が見られた。もちろんテレビの設定は「ゲーム」にしてある。事前にこのテレビの遅延を測定したときは1フレームほどだったので、本機だけで4フレームくらいは遅延している。

ウソだろおい……テレビと合わせて5フレーム以上ってまともにゲームできないだろ……

でも一応遊んでみることに。

画質は抜群にいいよ!

テレビの画面をカメラで撮るのがめんどくさくなってきたのでキャプボで録画した。

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ごちゃごちゃ

ドラゴンクエスト4

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まずはファミコンから。今回使ったファミコンは赤白ファミコン後期型に部品代数十円程度でAV出力をつけた改造品。

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仲間が1人スプライト数制限のため非表示になった瞬間のスクリーンショットなのだが、居たはずの場所の背景が若干汚くなっていることがわかる。3次元Y/C分離の副作用だろうか。

黒背景に白のメッセージウィンドウは非常にクッキリとうつっている。ノイズでざらついた感じも無い。

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ちなみにこれはテレビに直接つないだときの画像。文字の輪郭に滲みがあったり、全体的にぼやけた印象。実際に見ると画像が僅かに上下動して見える(i/p変換方式の違いか?)。

メニュー選択や移動がもたつく感じがするが問題なく遊べる。

スーパーマリオワールド

次はスーファミを試す。マリオワールドは最も知られているスーファミのローンチタイトルだ。

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とにかくジャンプのタイミングをあわせにくい。ブラウン管時代に作られたゲームだけあって違和感がすごい。

グラディウス3

こちらもスーファミ最初期のタイトル。アーケードからの移植作だ。平成生まれの筆者にとっては超高難易度のゲームに思える。

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スコア表示にドット妨害が見られるが、これがコンポジット信号の限界であり、どのようなテレビを用いても避けることはできない。

元からへたくそなのがさらにへたくそになった。そりゃ5フレームも遅延してたらなあ……。

スーパードンキーコング2

ドット絵ではなくプリレンダ3Dの革新的な名作。やや暗めで複雑なグラフィックも高画質に映してくれた。

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マリオほどではないがやりにくい。

聖剣伝説3

技術的に煮詰まってきたスーファミ後期のタイトルだ。ドット絵の描き込みの細かさも相当すごい。

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こちらのタイトルはメッセージウィンドウの文字だけハイレゾモードで描画している少し特殊な手法を用いている(一部のエミュレーターではうまく表示できないとか)。本機では特に問題は起きなかった。

RPGを遊ぶ分には悪くないな。

ビートマニアIIDX 15 DJ TROOPERS

世代2つ進んで今度はPS2から。本作は「譜面が流れてきたタイミングでボタンを押す」というシンプルなルールの音ゲーだが、タイミングがシビアなことからモニターや変換器の性能を測るのに最適だ。16:9で遊べるので16:9にした。

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このゲームはボタンを押したときに曲に対応する演奏音が鳴る。音の出力の遅延があると非常に遊びにくいので、赤/白のケーブルは本機には接続せずパワードスピーカーに直接接続した。

本作は液晶テレビプラズマテレビの遅延に配慮して表示タイミングの調整ができるようになっている。*4これがないと判定ラインで目押ししてもズレた判定になってしまう。

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タイミング調整を-5にして遊んでみるとピッタリあう。インターレース解除のアルゴリズムによっては譜面表示がダブって見えたりして視認性が悪くなるが、本機では問題なかった。タイミング調整のおかげで案外遊べた。

切替器としては行儀が悪い

セレクターとしての機能も試すことにした。PS4やSwitchがテレビの電源を自動でつけたりするときのHDMI CECは使えなかった。

EDID偽装問題

PS4 Proをつないでみると仕様通り1080pまでしか出力できない。4:2:0すら(非対応)と表示され、選ぶことができない。HDRも無理。

どうやらこの切替器は接続した機器にテレビのEDID*5ではなく、この切替器が持っている"固定"のEDIDを機器に伝えているようだ。これはまずい。

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モニターの仕様を無視して固定のEDIDを返すようだ

このようにモニター本来のEDIDを伝えない仕様はあらゆる場面で弊害が出てくる。まず、本機はモニターの対応解像度に関係なく、接続したゲーム機などの機器に「1080pのモニター」として振る舞うので、モニターが1080pに対応していなければ映らなくなってしまう。他にもモニターが持つ機能を活かせない可能性がある。

古い1080iまでしか映らないテレビにつないでみると案の定使えなかった。

NO SIGNAL画面

信号がないときはNO SIGNALと画面に表示される。これはHDMI入力でもAV入力でも同じ。

パソコンのモニターに接続しているとき、これのせいでモニターの電源が自動でOFFにならず不便だ。モニターの自動切り替え機能を使っていたらもっと厄介かもしれない。

テレビとゲーム機の組み合わせで使うことしか想定しておらず、パソコンやパソコンのモニターで使うと不便が生じる。

AV入力にバグ

AV入力の解像度は基本的に1080pだが、本機のHDMI端子にゲーム機などを接続して1080p以外で出力した後にAV入力を選ぶとその解像度になる

ミニファミコンなんかは720pだから、ミニファミコンで遊んだあとにAV入力に切り替えると720pになってしまう。なにもうれしくないし普通にバグじゃないかな。

電源を入れ直せば直るので特に困ることはない。そもそも1080pじゃなくなったところで480i/240pのソースを拡大しているだけなのだから変わっても気づかない*6だろう。

分解

どんな部品が使われているのか気になったので分解した。

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基板

  • MSTAR TSUMV56RBUT-Z1 マルチメディアLSI

データシートが見つからなかったので具体的に何するLSIかわからん。HDMI入力3つとAV入力がこれに接続されている。メインチップ。

  • Winbond W25Q32JVSSIQ 4KiB NORフラッシュ

メインチップの設定値か制御用のプログラムコードが書き込まれていると思われる。

メインチップからきた信号をHDMIで出している。

さいごに

「レトロコンシューマー愛好家の救世主!安価でアスペクト比が変えられる良質なコンバーター!」とでも銘打った褒めちぎり記事を書こうと注文直後から準備していた。しかし、いざ届いてみると遅延はひどいし切替器の挙動も変でがっかりした。

はっきり言っておすすめできない。アスペクト比を気にする人間はそれ以外の細かいことも気にするだろうから、本機では満足できないと思う。画質はいいんだがなあ。

持っていないので試せないが、VHSやレーザーディスクの鑑賞では遅延は問題にならないのでアリかもしれない。

(おまけ)他のソリューション

このやり場のない感情をどうにかするために「レトロゲーを快適に遊ぶための他のソリューション」をおまけとして紹介することにした。詳しく調べたわけではないので、詳細は各自ググってみてほしい。

エアリア SD-UPCSHA アップエンパイア2

自作PCのニッチなパーツを安価で出してくれることで知られるエアリアが送る変換器。エアリア製品といえば「美男子の捕獲術」*7のようにちょっとドキッとしちゃう名前が与えられがちだが、こちらは案外普通だ。

アスペクト比以外の調整機能が充実していて6千円ほど。なんとS端子もついている。ここまで高機能だとレイテンシーが気になってくるがどうなんだろう。機会があれば試したい。

機種別の変換器(ゲーム機本体に直接接続するもの)

その機種専用の変換器。スーファミ用だったらスーファミでのみ使える。機種ごとに用意しなきゃいけないのがネック。

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内部接続がコンポジットなのかS端子なのかはたまたRGBやコンポーネントなのか不明なので手を出しにくい。専用を謳っているのだから中には優れたものもあるだろう。

PS2HDMIにするやつは周波数そのままAD変換だけするもので、モニター側が480iに対応している必要がある。そのため、モニターによってはほとんどのPS2のソフトは映るが、プレステのソフトや一部のPS2のソフト(アーケードの移植など)は映らない、またはどちらも映らないといったことが起きる。

HDMIじゃなくてVGAのやつ

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中華通販で1000円前後
一昔前のPCモニターなら必ず付いているVGA端子で出力するアップスキャンコンバータ。1つ持っていたが大学に置いてきてしまった。(へたくそだが)ファミコングラディウス2だって違和感なく遊べたし、画質も普通だ。疑似NTSC(240p)と呼ばれる信号もちゃんと映る。

古い「マルチメディア機」を買う

リモコンが付属してて、コンポジット/S端子/D端子/VGA/DVI/HDMIととにかく入力端子が豊富なPCモニター。

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私は三菱のMDT242WGを2年前に中古で4千円ほどで購入した。アスペクト比の変更や整数倍スケーリング、黒フレーム挿入による残像低減、低遅延のスルーモードなど本当にいたれりつくせり。

プロジェクター

ビジネス向けプロジェクターは実はありとあらゆる信号に対応している。スクリーンや白い壁に投影して大画面で楽しめる。

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私が持っているエプソンのEMP-823は中古で5000円で購入したものだ。コンポジット/S端子/VGAは当然として、VGA端子から色差信号の入力もできる。68k時代のMacintoshの映像も難なく映った。とても調子がいいのでサークル用にもう一台買ったくらい。

とは言ったものの、天吊じゃないので準備が面倒だし、消費電力もそれなりかつ夏場なら部屋も暑くなる。全く手軽じゃない。手軽じゃないという非日常性に価値を見いだせるならアリ。3日で飽きる。

業務用のスキャンコンバーター

中古で安く買えるようだ。私はイメージニクスのVLD-19を持っている。コンポジットやS端子の入力をVGA相当の31khzアナログRGBで出力するものだ。

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しかし、こいつは業務用らしくBNC接続だ。コンポジット入力はともかく出力のRGBをVGA端子にするケーブルは少し手に入りにくい。仕方ないので筐体に穴を開けてVGA端子を付けた。

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イメージニクスのアップスキャンコンバータにはDVI出力のものもあり中古で数千円で買えるようだが、業務用という性質上、民生機との組み合わせや一般家庭での使用で不便が生じがちだ。はっきり言っておすすめできない。

マニア向けのコンバーター

レトロゲー・レトロPC愛好家の間で評判の良い電波新聞社のXRGBシリーズなどが挙げられる。RGB入力による高画質表示、幅広い対応フォーマットなど、うるさいオタクシビアなマニア層に人気がある。残念ながら製造終了。

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最近ではOpen Source Scan ConverterやRetroTINK-2Xといった優れた製品が海外を中心に流通している。同人ハードみたいな感じなのかな。それぞれ機能が違うのでちゃんと調べなきゃかも。こういうのは買える内に買ったほうがいい。

ブラウン管テレビ

ビビッドな色使いと水平走査のキーンという音、まさに本物。レイテンシーは無*8

今から手に入れようと思うと友人から譲ってもらうか、ヤフオクやフリマアプリで買う*9しかない。

私はソニーの小さめの業務用モニターを譲ってもらい、今回のように遅延の測定やゲームに使っている。2000年代のゲームを遊ぶには画面が小さすぎるが、スーファミくらいなら快適に遊べる。

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9インチでも画質はそこそこ

壊れ方次第じゃ修理は困難*10だし、処分にもお金と労力がかかる。現代の価値観だと無駄にデカいし重たい箱、捨てるのも一苦労。多すぎるデメリットをのめるならアリ。

*1:ほとんどのモニターは720pや1080pの信号は16:9固定になる。480i/480pなら変更できる場合が多い。

*2:中華プロジェクターが16:10のパネルなのに16:9として振る舞う仕様で何を映しても縦に伸びるのが耐えられなくて捨てた。

*3:ファミコンのRF出力をビデオ信号に変換するということは、簡易的なテレビチューナーに相当する回路が組み込まれているということだ。

*4:ちなみにビートマニアIIDXシリーズは本作の他に13タイトルがPS2でリリースされているが、この機能が搭載されだしたのは12 HAPPYSKYからだ。

*5:モニターの対応解像度などを伝えるデータ形式

*6:ネイティブ解像度以外を入力するとレイテンシーが伸びるモニターもあるのでよくはない

*7:キャプチャボードの商品名

*8:2000年代のハイビジョンテレビには映像処理回路由来のレイテンシーがある。もしかしたら最近の液晶の方が低遅延かもね。

*9:大型のものは現地に取りに行ける人限定だったりする。

*10:そもそも素人が蓋を開けるのは危険。巨大な真空管であり、キャパシタであり、高電圧を扱う機械なのだから。